
1284年6月26日、ハーメルンの町から130の子供が消えた(5点)
2006年9月4日、新聞で訃報をみた。
ずっと気になっていたがまだ読んでいなかったので、
訃報をきっかけに手にとって見た。
「ハーメルンの笛吹き」は日本人にもなじみ深いグリム童話である。
ハーメルンの町にまだら服の男が現れた。ネズミを駆除するという。
鼠害に悩む町人は男に仕事を頼んだ。
男が笛を吹くと、ネズミは男の後をついていく。
そうして川まで誘い出し、男はネズミをおぼれさせた。
町人はしかし、約束の報酬を払わなかった。
男は怒って、笛を吹いた。
130人の子供たちが男の後についていき、忽然と消えた。
この童話は、単なる物語ではない。
1284年6月26日に130人の子供が失踪した、という記録があるそうだ。
そして、ハーメルンの笛吹きの謎解きは、近代にわたるまでずっと
研究者たちの好奇心の的だった。
阿部氏の視点は、しかし、単なる童話の謎解きではない。
この伝説の背景となった中世ドイツの庶民の生活を緻密にあぶりだしていく。
強烈な身分社会、宗教の支配、貧困、被差別賤民・・・。
中世の庶民にのしかかる重圧感がひしひしと伝わってくる。
そのリアリティが凄い。
なぜ130人もの子供が失踪したのか、笛吹き男とはだれだったのか、
謎はまだ当分は解けないだろう、と阿部氏はいう。
しかし本書には、その想像をめぐらせるだけの圧倒的な情報量がある。
自分なりのイメージを膨らませ、謎を考えるのも一興である。
良い本を遺してくれたことを感謝しつつ、冥福をお祈りします。
歴史との向かい合い方(4点)
本書は、「ハーメルンの笛吹き男」というモチーフを「130人の子供の失踪事件」と「笛吹き男とはそも何者か」という主題に分けて考察します。
TVの特別番組風の「新発見!」から結論をこじつけてゆくような姿勢ではなく、中世に生きる様々な立場の人間の生活生理を細かく観察することにより「失踪事件」や「笛吹き男」を生んだ背景を滲み浮かばせてゆこうとする本書の態度は、「ハーメルンの笛吹き男」という中世の物語が持つそこはかとない暗さ哀しさをよく説明し得ていると思います。
史実と伝説のあいだ(3点)
ハーメルンの笛吹き男って、なんか、ブレーメンの音楽隊、とごっちゃになってたけど、中身はぜんぜん違う。笛吹いて鼠を退治した男が、鼠退治の報酬をもらえなかったから怒って、子どもをさらっていった、という話だ。 童話だと思ってたけど、童話っぽくない。 阿部さん(ほか多くの研究者)に言わせると、これは、1284年6月24日に、ハーメルンの街中から突然130人の子どもが忽然と消え去った史実に基づいているという。 へー。 そして、「史実」と「伝説」の間の距離を埋めていこうとするのが、阿部さんの仕事だ。その仕事ぶりは、丁寧で堅実で信頼できるものだ。「距離のつめ方」というところには、性格が出ると思う。学問の世界でも、日常世界でも。 ただ、ほんとうになんで子どもが消えてしまったのかについて知りたい人は、この本を読んじゃいけない。そういう本じゃないから。 |