
これは戦記(4点)
第5巻は、バルチック艦隊の滑稽な航海の様子を挟みつつ、主題は203高地攻略から旅順陥落までを描きます。
第1巻から読み進めてようやく実感しましたが、この小説は他の司馬作品とは趣きを大きく異にしています。
序盤こそ主人公の秋山兄弟や正岡子規の描写が中心で、他の司馬作品同様、かなり感情移入できたのですが、中盤(第4巻あたりから)以降はまさに日露戦争の「戦記」といえる内容であり、読者にとっては好き嫌いが分かれるのではないでしょうか。(私は好きですが)
日露双方の登場人物はそれぞれキャラがたって表現されているのですが、それ以上に、凄まじい戦闘の様子がこれでもかと記述されています。小説ですので多少フィクション的要素もあると思いますが、著者もたびたび記しているとおり史実に対する「余談」が多く挿入されており、一般的に知識が乏しい時期である明治時代後半の日本や世界の情勢、日露戦争の様子が幾層にもわたってイメージを構成できる記述になっています。
データ、エピソードの豊富さは、参考文献一覧を記載して欲しいほどです。
旅順陥落とその多大な犠牲(5点)
旅順は陥落したが、それに払った多大な犠牲を思うときに、戦争指揮官の責任とはなにかということを深く考えねばならない。
この戦争における犠牲者に対して責任所在の有無は重要なことではないのか・・・
旅順陥落(5点)
旅順での乃木司令部の余りのまずさに、ついに別の場所で開戦の指揮をとっていた児玉が、旅順の指揮に乗り出す。簡単なことに見えるが、軍の内部でそのトップが交代するということはとんでもないことというのが常識であった。何も、官僚的な組織論から出た考えではなく、兵士の士気等戦争には欠かせない重要なものがそれにより失われるということが現実によくあったのだろう。 しかし、それを児玉は見事に、組織を崩壊させることなくやってのけた。しかも、その後すぐに203高地(旅順攻略のポイントとされた場所)を陥落させる。方法はいたって単純で、分散していた兵力をこの1点に集中させたのである。 逆に言えば乃木司令部、特に無能であると著者の切り捨てられた参謀伊地知はこんな当たり前のことをかたくなにやらなかった。 児玉の活躍はまさに痛快であった。歴史的には表面に出てくることのないこの大活躍を著者は見事に描写してくれた。素晴らしいことだと思う。 |